VW Driving Experience in Tunisia 2009 サハラ砂漠を走る   





●2 自動車メーカーが、なぜツアーを主催するのか? 




フォルクスワーゲン社では、2003年から
「ドライビング・エクスペリエンス」活動を行っている。

有料で申し込んだ参加者を同社の最新型に乗せ、
さまざまなツアーやレッスンを行うのがその内容だ。

規模の小さいものでは、エコ・ドライビングレッスンがある。
半日の日程で、エコ運転をするにはどうしたらいいか、
ポロやゴルフを運転しながら、インストラクターが教えてくれる。
これは日本、中国、韓国でも一昨年から行われている。

ドイツでは、オッシャースレーベン・サーキットを使った、スポーティドライブ編もある。

「速く走ることと一緒に、危険回避や安全運転についても教えています」
(フォルクスワーゲン本社ドライビング・エクスペリエンス担当、
ブリッタ・ショーンフェルダー氏)

他に、運転初心者のためのビギナートレーニングやオフロードトレーニング、
珍しいところでは、ショーファー専用コースもある。

それらの中でも規模の大きなものがオフロード・トレーニング付きのツアーだろう。
ドイツ・フランクフルト空港に集合し、飛行機で海外に出掛けていく。
行き先は、北はノルウエーやアイスランド、東はトルコやドバイ、
南はボツワナ、ナミビア、南アフリカ、モロッコ、そしてチュニジアなどだ。

2泊から4泊の行程で、適度に各地の観光スポット的なところをコースの中で
訪れつつオフロードを走り、再び飛行機でフランクフルト空港へ戻ってくる。
参加代金は、ツアーにもよるが、4泊の場合でだいたい2000ユーロ前後に
設定されている。

ロシアでは、フランクフルトまで赴かなくても、フォルクスワーゲンのメソッドに
従いながら、 国内で独自のオフロードトレーニングツアーを開催し始めている。

つまり、「ドライビング・エクスペリエンス」は、フランクフルト空港に集合する
ドイツ本社主催のものと、 各国のフォルクスワーゲン支社が独自に開催している
ものの2系統が存在している。

したがって、自らフランクフルト空港まで赴き、外国人と一緒のツアーを
厭わないのであれば、日本からでも誰でも参加料金を支払えば
参加することができる。ツアーの詳細と申し込み方法は、
ウェブサイトに掲載されている。

約2000ユーロのツアー参加代金には、フランクフルト空港から目的地までの
往復航空機代、4泊分の宿泊代金、一日3食の食事代などが含まれている。
もちろん、クルマの使用料金や燃料代、インストラクターの講習費なども同様だ。

ちなみに、今回のツアーは、フォルクスワーゲン・ジャパンが主催して
参加者を日本国内から募り、4回行われるチュニジア・サハラ砂漠ツアーの
1回として、本社のスタッフとインストラクターのもとに催行された。
参加代金は、成田往復の航空運賃も含め20万円。

日本から参加した場合の20万円は特に、フランクフルト空港に集合して
参加した場合の2000ユーロでも、内容を考えれば大バーゲン価格である。

仮に、トゥアレグV6TDIのレンタカーを4泊5日間借りて、800km以上
走行したとすれば、燃料代を併せてそれだけで20万円は超えてしまうだろう。
宿泊した、ふたつのホテルのひとつは五つ星の高級ホテルで、
もうひとつは星表示こそしていないが、オアシスの中の豪華で快適なホテルだった。

また、サハラ砂漠のようなところを走るには、土地勘があり、
砂漠と4輪駆動車に精通しているガイドの存在は必須である。
その手配などを含めて考えれば、今回のツアーがいかに格安かつ
貴重であるか想像できるだろう。
現地の事情に通じているだけでなく、自動車で旅をするノウハウと装備は
入念な準備なしには手に入れられるものではない。

なかなか走ることができないところを旅できる楽しみの他に、
「ドライビング・エクスペリエンス」には、もうひとつの楽しみが内包されている。
あなたが、もしフォルクスワーゲンのユーザーだったり、これから購入を
考えているのだったら、旅はより深みを増すことになる。

トゥアレグの持つパフォーマンスを十二分に発揮できるのだ。
砂漠では4輪駆動の実力を、砂漠から出たならば、
地平線まで続く空いた道を延々と走り続けることができる。
日本では体験できないシチュエーションで、ユーザーならば自分のクルマの
底力を確認することができるし、これから購入を考えている人ならば 、
真価を知ることができる。

「ドライビングエクスペリエンスは、顧客の満足度を深めるためのイベントとして
始まりました。最初は、ドイツ国内でのフェートンでの安全運転トレーニングと
トゥアレグでの オフロードドライビングトレーニングでした。
すぐにポテンシャルカスタマー(顧客候補)にも対象を拡げ、
販売促進の一環として、特別に重要な活動として成長してきました」
(前出のショーンフェルダー氏)

イベント数も増え続け、2008年には203ものイベントが開催された。
参加人数は、6500人。

「規模が大きくなったのは、参加者の反応がきわめて良かったからでした。
参加者たちはみな、フォルクスワーゲンのさまざまなパフォーマンスを引き出して
運転することを習得するのに夢中になってくれています。
もちろん、リピーターも少なくありません。
参加費用についても満足しています。
我々が予想した以上の成果を挙げています」

ショーンフェルダー氏の話を聞いて印象深かったのは、ドイツ本国をはじめとする
参加者たちが、サーキットや砂漠、ノルウェーの凍結湖などの
“特別な場所”でのレッスンを強く求めているということだった。

日本から見れば、ヨーロッパは依然として、クルマをクルマらしく
走らせることのできる“自動車天国”のはずである。

しかし、都市部の渋滞や自然環境保護の観点からのオフロードエリアでの
走行制限区域の拡大など、“走れる場所”が狭くなりつつあるのだという。
ヨーロッパも確実に変わり始めている。

「また、パフォーマンスを実現するための機能の説明と実演も、
参加者から求められます」

サーキットであれば、各モデルのRシリーズやGTIシリーズなどの高性能モデルの
運動性能を、トゥアレグやティグアンなどのオフロード4輪駆動車であれば、
悪路走破能力を試し、参加者が実践できる場を提供していることが高い評価を得ている。

リピーターや参加者を増やしている理由は、もうひとつあると思った。
それは、旅というものが根源的に有する魅力とクルマを組み合わせたことだ。

日本から見ればヨーロッパとチュニジアは遠くはない位置関係にあるが、
誰でも訪れたことがあるというわけではないだろう。
広大な砂漠と圧倒的な景観、味わい深いチュニジア料理などは彼らにとっても
エキゾチックな体験であるはずだ。
自分でクルマを運転するのは面倒臭い、バスで行きたいという人でない限り、
ちょっとした冒険心をくすぐってくれる旅は大いに魅力的に映るのではないだろうか。

“ここではない、どこか”を求め、漂白するのに、クルマほどふさわしい手段はない。
人間のDNAに深く刻み込まれている欲望を刺激し、
現代的な安全やエンターテインメントを確保しながら往くツアー
「VWドライビングエクスペリエンス」が、ヨーロッパで支持を集めてきている現状を
理解することができた。

日本から参加した3人も、大いに興奮し、満喫していた。
潜在的な参加希望者は、相当数いることは間違いない。
本社に申し込んで、フランクフルト空港に向かうのも一興だが、煩わしいことは否めない。
日本のアレンジが加わったツアーの第2弾、3弾が行われることを期待する。