Transsyberia2007 トランスシベリア 外伝-5

2007年8月 ロシア・モスクワ~モンゴル・ウランバートル



●8月6日

今日は、ロシアで最後のスペシャルステージが行われる。
東北東に42km行った森林の中がステージだ。
35kmの林間コースは、スタート地点から様子がうかがえない。
午後1時のスタート時刻が午後2時に延ばされる。
ここでの運営手伝っているのか、地元のオフロード・カー・クラブの面々が集まっている。
 
彼らのクルマを見ると、ここのステージが半端でなく過酷なものであることがわかる。
トヨタ・ランドクルーザーや日産サファリ、ランドローバー・ディフェンダーなどが、
みな車高を上げ、ショックアブソーバーをダブルに改め、空気量の多い、
扁平率の低いタイヤを履いている。

「こんなクルマじゃないと走れないくらい、相当マディなところなんだよ」
地元グルマの改造ぶりを見て、小川さんは驚いた。
午後2時になっても、スタートする雰囲気はない。
時々、地元グルマがスペシャルステージが行われるところへ往復している。

「スゴくマディで、難しい」
ゼッケン22番のチーム・ロシアのカイエンに乗るオレグ・ラステガエブに訊ねてみたら、
彼は以前にここを走ったことがあるという。
ラステガエブはロシアの自動車雑誌の編集者だ。
これから戦争に行くんじゃないかっていうくらいの本格的な格好をしている。
膝下までのレースアップブーツに、カモフラージュの上下。
頭には、黒いバンダナを海賊巻き。
カラシニコフを、どこかに隠し持っているんじゃないか。

「キャンセルされるかもしれないゾ」
ブン屋のプラディップが、また誰かから聞きつけて来た。
 
午後2時30分になって、サイレンが鳴らされ、主催者がその場でブリーフィングを開いた。
「数日前に雨がたくさん降り、ぬかるみが深く、状況が厳しくなっている。
ここで、無理してクルマを壊してしまうわけにはいかない。
我々は、ウランバートルまで走らなければならないのだ」
 
案の定、スペシャルステージのキャンセルだ。みんなブーブー言っている。
今日は、テュメンまで残り263km移動するだけだ。
ロシア最後のスペシャルステージがキャンセルされたから、次のスペシャルステージは、
モンゴルに入ってからになる。それは6日も後のことなのだ。

●8月7日

オムスクまでは、M7ではなく並行して走る03号を行く。
モスクワから離れるに従って、少しずつ道路の状態も悪くなっていたが、ウラルも越え、
さらに1時間分東に進んだこの辺りでは、明らかに路面状態が悪化している。
舗装が割れ、うねりや轍が連続する。
 
昨日の、スペシャルステージ・キャンセルについての主催者の言い分も理解できるが、
何日間もドライブ同様の長距離走行が続くことで、
小川さんも僕も気を削がれたことは確かだ。

「カネコさん、オムスクって大きい街なの? 
今晩は、気分転換してホテルの晩飯はパスして、自腹で中華でも行こうか?」
現金なもので、グッドアイデアに、ふたりのヤル気は一気に盛り返した。
 
オムスクのホテルは、ソ連時代に建てられた古いものだった。
食事は、絶対に期待できない。
主催者のひとりにロシア語に堪能な人がいたから、
ホテルのレセプションで通訳してもらった。
中華料理屋があったら予約してもらって、遠いようだったらタクシーを呼んでもらおう。
 
すぐにやって来たヴォルガのタクシー運転手に、ロシア語スタッフは確認してくれた。
「“中華もあるけど、寿司はどうだ?”って言っているけど?」
「おススメはありがたいけど、その寿司は信じられないから、中華に連れてって」
 
ホテル「モロディザーニャ」は街外れにあったから、タクシーに15分ぐらい乗って、
街の中心まで出た。
ロシアの大都市に多い、大きなスポーツ&芸術センター横に
「ゴールデンドラゴン」はあった。
店は広く、ステージまである。立派な店構えとインテリア。
熱帯魚の大きな水槽まである。
中国人とロシア人の店員は、ロシアにしては例外的に愛想とサービスが良い。
 
ステラアルトワの生ビール、エビとカシューナッツ揚げ、竹の子サラダ、
蒸し餃子、ビーフカツレツに白いご飯。
締めて、1335ルーブル(約5340円)。
ロシアの物価にしては、立派な高級店で、味も結構でした。

●8月8日

オムスクからノヴォシビルスクまでの、666kmは国道M51を行く。
ロシアは東に進むほど、“文明度”が薄くなってくる。
M51の両脇には、建物が少なくなり、背の高い白樺林や、とうもろこし畑や
ひまわり畑が延々と続く。
時々、道沿いに魚の干物売りが台を拡げて商売をしている。
地図を見ると、進行方向右側に大きな湖沼地帯が広がっている。
バイカル湖の辺りで、オムリという魚の薫製を買って食べたことを思い出す。
 
その干物売りと目が合うと、右腕を伸ばして親指と人差し指を
ピストルの形にして向けてくる。
この先で、警官がスピードガンで速度取り締まりをしていることを教えてくれる。
 
取り締まりのパターンが、読めて来た。
カーブした上り坂で追い越し禁止車線の先に隠れてスピードガンを構えている。
あるいは、遅いトラックに我慢できずに、禁止を犯して追い越すと先で待っている。
悪徳警官というのは、どこの国でも卑怯で下劣なものだ。