Transsyberia2007 トランスシベリア 外伝-2

2007年8月 ロシア・モスクワ~モンゴル・ウランバートル


●プライベーターの911

トランスシベリア2007の主催者は、ラリーカーや関係車両を途切れさせないために、
羊飼いの犬のように列の途中や後ろに前後して西へと進んでいく。
一本道なので迷うはずもないのだからそのまま進めばいいのに、
路肩や広場にラリーカーを停めて、確認作業を怠らない。

「オレはエリック。911で参加している。ヨロシク。
君らのマムートのステッカーはカイエンに似合っていてカッコイイな」
広場に停まった時に、マルティーニ・カラーに塗ったポルシェ911に乗る
エリック・ブランデンブルグから話し掛けられた。
あとで確かめたら、名前にドクターと付いていたから博士だ。何の博士だろう。
 
911は、ボディとエンジンこそ1975年製のものを使っているが、
徹底的に改造されたスペシャルだ。
サファリラリーで優勝した時のワークス911のように、
80%扁平のハイトの高いタイヤを履いている。
僕らのカイエンはロードカーのように薄い55%扁平だ。
スペシャルステージで、このタイヤに悩まされることになるとは、
まだこの時点では気付いていない。
 
M7から側道に外れ、白樺林の中を延々と進んでいったところが、
今日のスペシャルステージのスタート地点だった。
背丈くらいの草が生い茂り、遠くには、高さ20m以上の白樺が林立している。
 
スタートを待つ間、ドライバーの小川義文さんは準備に余念がない。
タイヤの空気圧と異物のチェックを済ませると、カイエンのリアドアを開けて、
荷物を確認する。荷物の固定が緩んでいないか、
各種のタイダウンロープやネットなどで荷物や工具などを締め付ける。
 
スタートが近付き、ヘルメットを被る。
どんなスポーツでも、ヘルメットを被る瞬間は緊張するものだ。
アライヘルメットが作ってくれた、
日の丸を大きくペイントしたジェット型が頬を締め付ける。
 
インターカムのジャックをヘルメットに差し込む。
スペシャルステージ中は、エンジンや走行音と、ヘルメット着用で 会話が掻き消されて
しまうから、ヘルメットに組み込んだ小型マイクとスピーカーを使って会話を行う。
ノブを回してボリュームを上げると、フィ~ンというノイズが微かに聞こえてくる。
 
1回目のスペシャルステージだから、スタートはゼッケン順だ。
15番目。
14番は、スズキ・グランドビターラの女性コンビ。 16番は、コロンビア・チームの
クリスチャン・フェイルシュナイダーとクラウス・ヴァターだ。
 
クリスチャンとクラウスのふたりとは、5月にポルシェが行ったトレーニングで会い、
よく話をしていたから気心が知れている。
トレーニングは、カイエンを生産しているライプチヒ工場に隣接する
ビジターセンターと、すぐ近くの旧東ドイツ陸軍演習場で行われた。
 
ふたりともモータースポーツの経験はないが、参加してきた。
クリスチャンは、見た目、30代後半。
コロンビアにポルシェとトヨタを一手に輸入する会社を経営している。
クラウスはだいぶ年配で、60代だろうか。右足が悪いようで、ビッコを引いている。
クリスチャンは、毎年、豊田市に出張しているから、日本語が少し話せる。
向こうも、こっちも、お互いになんとなくシンパシーを感じている。