Transsyberia2007 トランスシベリア 国境-2

2007年8月 ロシア・モスクワ~モンゴル・ウランバートル


●タカリ警官のカツアゲ

モンゴルとの国境までの2500kmあまりが、
退屈な移動だけで終わったわけではない。
ロシアをクルマで旅する際に絶対に避けては通れない、
やっかいな存在となんとか折り合いを付けなければならないのだ。
タカリ警官である。
 
M7沿いで、物陰に隠れて、日本では使われていないハンドマイク型の
簡易スピード測定器をクルマに向け、クルマを停めて、尋問を行う。
パスポートとクルマの登録書類を出せと迫り、金を払わないと返さない。
遅いトラックを上り坂で追い越すところで、
ホンのわずかはみ出し禁止車線を踏んだという容疑で、金を無心してくる。
容疑もなく、ただ、停められたこともあった。
キチンとした取り締まりではなく、金を払っても調書なり、
違反切符を渡すわけではない。

「まったく、カツアゲみたいなもんだね」
小川さんも呆れて、なるべく停められないように注意を払って走る。
それでも、5回ほど、1車線に狭まったところで停められ、
有無を言わさず、パスポートとカイエンの登録書を取り上げられ、金を払わされた。
1000ルーブル(約4000円)と2000ルーブルを2回ずつセビられた。
どの警官も、親指と人差し指を擦り合わせる右手を僕らに突き付けてくるのが可笑しい。
「キャッシュはそんなに持ってない。ホラッ」とこちらの財布を見せると、
「じゃあ、あるだけでいい」と、630ルーブルで“放免”されたこともあった。

他のラリー参加者たちも、みんな停められていた。
派手な出で立ちのラリーカーだから、無理もない。
 
ホテルに着いてから、ロビーや食堂などでは、みんなその話題で持ち切りだった。
ロシア語ができるドイツ人のオリバー・ヒルガーなどは、
「議論の余地はまったくなかったよ。5000ルーブルも取られた」とボヤいていた。
 
ポルシェ・クラブ・シンガポール元会長のエディ・ケンは豪の者だ。
「カネなんて払わないサ。警官? 一度も停まらないよ。
停めようと寄ってくるけど、絶対に眼を合わせないようにするんだ」
 
カイエンSトランスシベリアの動力性能を以てすれば、
モスクビッチやボルガなどのパトカーを振り切ることは容易だろう。
でも、先の道路を封鎖されたり、撃たれたりしたら、
ラリーどころではなくなってしまう。

「彼らは、絶対に追っかけてなんか来やしないサ。
だって、追っかける手間と時間を掛けるくらいなら、
同じところにずっと“張って”いた方がカネになるじゃないか」
スルドい考察に、ちょっと舌を巻いた。

「エディは、どうしてそこまで言い切れるんだい?」
聞けば、シンガポールでは18歳になった男子には懲役義務が課せられ、
軍隊か警察に2年間入隊しなければならないという。
「僕はバイクが好きだったから、警察を選んで、
白バイライダーを懲役が終わってからも7年間勤めていた。
だから、警官の心理は、よくわかっているのサ」
なるほどー。
 
ま、とにかく、ロシアの道で唯一最大の厄介者は、
次から次に現れるタカリ警官だ。
それを除けば、道は空いているし、ガソリンスタンドは急速に整備されてきているし、
景色は雄大だし、シャシャリクは美味いし、人々は優しいし、いいところなんだ。