Transsyberia2007-prologue トランスシベリア2007ープロローグ

2007年8月 ロシア・モスクワ~モンゴル・ウランバートル


●ラリーに誘われる

写真家の小川義文さんが、折り入って話があるという。
「8月に、“トランスシベリア2007”ってラリーに出るんだけど、
カネコさん、興味ありますか?」

小川さんは優しい調子で本題を口にしたが、眼は真剣だ。
聞けば、モスクワの赤の広場をスタートして、
14日後のゴールはモンゴルのウランバートルだという。
走行距離7000km。クルマは、『ポルシェ・カイエンS・トランスシベリア』。

小川さんはパリ・ダカール・ラリーにドライバーとして7回、
監督として2回出場したことのある、ラリーのプロでもあるのだが、
こちらは競技経験ゼロ。
コ・ドライバーなんてとても務まらない。
「競技経験は不要。必要なのは、
カネコさんがロシアを走ってユーラシア大陸を横断した経験。
ロシアの道路や土地がどんな状況で、どんな風土なのか。
それは走った人しかわからない。
こういう超長距離ラリーになると、いちばんモノを言うのは経験なのです」

さすが、パリ・ダカのベテランだ。
ロシアの道が日本や欧米諸国のそれとはずいぶんと違うだろうとハナを効かせている。
アヤしそうだとニラむ通り、ロシアの道は過酷だ。
立派な舗装路に突然大きな穴が出現したり、
角の尖った石ころが連続するダートが100km以上続いたりする。
「気候やガソリンスタンド、ホテル、食事なんかはどうなっているんですか? 
ラリーに勝つためには、
そういったことをひとつずつ把握していく必要があるんですよ」

小川さんはアツく問い質してくる。
撮影では柔らかくクールなのに、このアツさはどこから来るのか。
モンゴルのゴビ砂漠が呼んでいるのか。
「FIA競技ライセンスを返還して、ラリーから引退したつもりだった。
でも、精神的も肉体的にも、このまま老け込むのも悔しい。
だから、もう1回やってみることにしたんだ」

経験が活かせるならばと、僕はその場で参加を決めた。
1度ならず、2度もロシアを走ったモノ好きなんてヨーロッパにも
あまりいないだろうから、少しは期待に応えることができるかもしれない。
でも、4本のダンパーが抜け、軽い鞭打ち症になった極悪路を思い出すと、
ちょっと頭が痛くなってくる。

そして、自分にとってラリーは、新しいチャレンジになる。
ドライバーを助け、進むべきルートをつねに把握し、
ラリーカーを正しく導かなければならない。
ラリーをやったことはないけれど、
似たようなことは世界中で経験してきたから不安はない。
でも、新しいことを始めるというのは、いつも気持ちが昂ってくる。 


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◆本コラムは
「NAVI」誌2007年9月号
「トランスシベリア2007参戦記 
中年も荒野を目指す」に加筆と修正を
加えたものです