Road to the Clouds   5000メートルの峠を越える  


●下りでも高山病が

翌日、ルタ40から外れ、ルタ51でサルタを目指す。

サルタに向けて、標高が下がり続けるに従って、景色も変わってくる。
巨大なサボテン群が連続する渓谷を越え、太く流れの激しい河を渡り、
小さな村や町を通り過ぎて行く。
人のいるところでは、地元のオバさんが道行く旅行者のために、露店を出している。
手編みのセーターやキャップ、人形やキーホルダーなどの土産物を売っている。
どれも、地元の人たちが手作りしたとわかる素朴なものばかりなので、
僕も、薄緑色の石を削って作られた小さなリャマの置物を買った。
10ペソ(約400円)。

途中から、ルタ51は舗装路となり、自然とペースも上がる。
前を行く、ランドローバーのスタッフが乗るディスカバリー3が、時々、路肩に停まる。
そのたんびに、昨晩のホステリアで働いていたオバちゃんのひとりが降りてきて、
吐いている。
可哀想に、何度か、それを続けていた。
あとで聞いたら、高山病で僕らが苦しんだように、反対のパターンで、
ふだん高いところに住んでいる人が標高の低い(彼らからすれば)ところに来ると、
濃い大気で息苦しくなってしまうのだそうだ。
オバちゃんには悪いけど、つくづく人間って、
その土地、その風土に生きているものなのだなって実感する。

昔は、ルタ40もルタ51も、馬車や山羊に乗ってアンデスを越えていたから、
下から行く人間にも、上から降りて行く人間にも、ゆっくりと身体を慣らしながら
行っていたわけだから、そんなにキツくはなかったんじゃないか。

皮肉なことに、ディスカバリー3は、その卓越した悪路走破能力と舗装路での
高速性能と快適性によって、アンデスを非常に速いペースで上下してしまった。
上りでは僕らが、下りではオバちゃんが、その副次的犠牲となってしまった。

昨日までアンデス山中の岩の上や川の中を、アクロバットのように越えていたのと
同じクルマとは思えないほど、ディスカバリー3は、
柔らかな乗り心地と静かな車内を保ちながら、ハイペースで飛ばして行く。

サルタは、大きな街だった。
街の中心部に入るのに、小一時間掛かった。
標高は1200mまで下りてきたから、もう頭痛はしない。

街の周辺の様子を見た限りでは、旧宗主国のスペインというよりも、
フィリピンやメキシコの地方都市に近い。
片側4車線に増えたルタ51とは対照的に、それと並行して走る脇道は狭く、
界隈はゴチャゴチャしている。
高級車も走っているが、その脇をノーヘル 2人乗りのバイクが
2ストロークの白煙を盛大に巻き上げながら、スリ抜けていく。

街の中心部には、「7月9日広場」と呼ばれる大きな広場があった。
太く背の高いパームツリーがたくさん広場を囲み、ベンチがあちこちに配されている。
広場の周囲の建物は、どれもコロニアル風な立派なものばかりだ。
特に、カテドラルが素晴らしい。白とピンクの外観とは異なり、
内部はゴールドの装飾が眩い。