Road to the Clouds   5000メートルの峠を越える  


●ヒルディセントコントロール

今では、他のクルマも標準装備するようになったヒルディセントコントロールだが、
商品化したのは先代レンジローバーが最も早い。急な下り坂を前にして一旦停止し、
センターコンソールの黄色いボタンを押す。

ヒルディセントコントロールをONにすると、
ドライバーはブレーキペダルに足を乗せてはいけない。
ディスカバリー3の電子頭脳が、路面の傾きや滑りやすさを感知し、
それに合わせて4輪それぞれに個別にブレーキを掛けていく。
ドライバーがあまりの急斜面に怖じ気づいて、唐突なブレーキ操作をして、
タイヤをロックさせたり、最悪の場合は転倒にいたるのを防止する技術だ。

ヒルディセントコントロールは、
ランドローバー自慢の「テレインレスポンス・システム」の一部を形成している
ドライブ・アシスト・システムだ。

ルタ40を北方向に降りて行ったところにある小さな街が、
サンアントニオ・デ・ロス・コブレスだ。
だいぶ下ってきたつもりだったが、車載のガーミンのGPSは、
まだ標高3780mと表示している。大きめのロッジにチェックイン。

ランドローバーのスタッフからは、“ホステリア”と聞いていたので、
日本の山小屋のような、窮屈で一時しのぎの宿泊施設を想像していたが、
日本のスキー場にあるようなホテルより立派で、清潔な施設だった。
山の中の小さな村なので、さすがに食事の内容は質素だったが、
そこはアルゼンチン。味は、なかなかだった。

富士山々頂よりも高いところなので、5000mよりも症状は軽くなったが、
まだ頭がちょっと痛む。
だから、ディナーのテーブルに回ってきた美味そうな赤ワインも
グラスに軽く一杯だけしか飲みたくならなかった。

同行の放送作家、小山薫堂氏と相部屋だ。
僕は、疲労が蓄積されているとイビキがひどくなるので、あらかじめ謝っておく。
お互い、機内で配られた耳栓を挿入して、就寝。

高山病は、脳と血液中の酸素が平地よりも少なくなることが原因で起こる。
夜中に、三度、頭痛で目覚めた。
その都度、水をたくさん飲むので、トイレにも出掛ける。
それを二人で繰り返すわけだから、安眠できるはずがない。

サンアントニオ・デ・ロス・コブレスは、鉄道ファンによく知られているらしい。
「Tren a las Nubes」(雲の列車)という高山列車の通過駅があるからだ。
列車は、ここから165km離れたサルタという町を出発し、
チリ国境の町Socompaを往復している。
最高地点は、4220mにも。
現在、雲の列車は運休中だが、同じルートを行くバスツアーが行われているそうだ。
鉄チャンには、お気の毒ですナ。