Road to the Clouds   5000メートルの峠を越える  


●最新のオフロード4WDとは

大事なことは、その先にある。

これらふたつのシステムは、どちらもセンターコンソールに位置していて、
ロータリースイッチとノブで選択とON/OFFが行われる。

スイッチとノブを動かして、ドライバーが能動的に操作することに、意味を置いている。
悪路を前にしたドライバーは、必ずクルマを一旦停めて、考えを巡らす。
どこを、どう走ろうか、と。
ドライバーが自分の頭で考えるところから、運転はもう始まっているのだ。

ディスカバリー3は、テレインレスポンスとヒルディセントコントロールによって、
ドライバーのスキルの違いによる悪路踏破力の違いを小さくしたが、
判断の自由までは奪ってはいない。
どのラインを、どう走るかはドライバーが決めなければならない。
手助けはしてくれるが、自分で考えろというわけだ。
自律的であり、前向きでもある。
ディスカバリー3では、メカニズムだけでなく、
ドライバーの心理領域にまで踏み込んだクルマ作りがなされている、と思った。

その晩は、山の中でキャンプ。
翌朝、ルタ40を再び北上する。カルチャキ・バレーやコロムなど、
ワイン用ぶどう畑を過ぎていく。
日本ではチリが有名だが、アルゼンチンもワインの有数の産地だ。
チリは輸出に熱心だが、アルゼンチンは国内で飲み切ってしまうのだそうだ。
飲ん兵衛が多い。

本日の、というよりもこのイベント最大の目的は、南北アメリカ大陸で
クルマで通過できる最高標高にあるPaso Abra del Acay峠を越えることだった。
ディスカバリー3で峠道をグングン上がっていくと、身体フラフラ、
頭グラグラしてくるのと同じように、ディスカバリー3にも異変が現れた。
パワーが弱まり、明らかに加速が鈍くなってきたのだ。
気圧が低くなっているから、エンジンに送り込まれる空気も少なくなり、
パワーダウンしている。

ディスカバリー3は、最新のコモンレール噴射システムを備えた
2.7リッターV6ターボディーゼル・エンジンを搭載しているが、
5000m地点では大気圧が海抜0m地点の約半分しかないので、違いは明確だ。
ただ、ターボチャージャーの過給が効いていれば低い地点と変わらず
加速することがわかったので、コツをつかめた。
コーナー手前で減速する時に、なるべくエンジン回転数を落とさないようにするのだ。
フットブレーキよりも、6速オートマチック・トランスミッションの
マニュアルモードを活用し、積極的にシフトダウンを行って、
タービンブレードが勢い良く回り続けるように努めた。

ディスカバリー3のような最新型でなければ、こんなにハイペースで
5000mにまで駆け上がってくれることなどできなかっただろう。
コモンレール・ターボディーゼルとエンジンとトランスミッションの
電子&統合制御技術のたまものだ。

峠の標識には、4895mとあった。
僕らは、事前に許可を得ていたので、道路から外れ、
山の緩やかな斜面をソロリソロリと登っていった。

ガーミンのGPSは標高が上がっていくのを1m単位で表示していく。
斜面には、ナイフのように鋭利な断面を剥き出しにした岩と石がゴロゴロしている。
ここでサイドウォールを切って、パンクだけは絶対にしたくない。
タイヤ交換なんてしたら、フラフラとグラグラが大爆発してしまう。
緊張してハンドルを握っていたら、頭に血が上って、ヒヤヒヤものだった。