Road to the Clouds   5000メートルの峠を越える    


●岩と山と太陽光線 

カファジャテからの道は、ルタ(ルート)40。ブエノスアイレスから、
アンデスを越え、ボリビアとの国境まで続いている。
ブエノスアイレスからしばらくは舗装された高速道路になっているらしいが、
僕らが走り始めたカファジャテの街を外れると、すぐに未舗装のグラベルに変わった。

グラベルの周辺は、灌木がまばらに生え、岩混じりの砂地が続く。
その向こうには山々がそびえている。
土や岩は、まるで今年のスーツの流行色のようなグレーとベージュの中間の色に見える。
ネバダやユタなどアメリカ合衆国中西部の赤褐色とも、中国西部から
カザフスタンにいたるタクラマカン砂漠や天山山脈の黒ずんだ土壌とも異なっている。
雲はなく、強烈な太陽光線に照らされて、実物以上に、白っぽく見える。

時々、ルタ40を外れたコースを走る。
わざと、過酷なところを通るのだ。崖を降りたり、
急な傾斜の小山を登ったり、川を渡ったり……。
そうしたところは、もちろんランドローバーのスタッフが下見をしているのだろう
けれども、ディスカバリー3の悪路踏破能力には舌を巻いてしまった。
立っていられないくらい急な斜面、連続する岩、流れの急な川などを、
ゆっくり、しっかり越えていく。

ディスカバリー3に限らず、道なき道をオフロード4輪駆動車でクリアしていく
場合には、コース取りを考え、慎重に進まなければならないことは言うまでもない。
だが、ディスカバリー3は、この“ゆっくり、慎重に”走らせることを、
とても重視してクルマ作りがなされている。

まず、よく動くサスペンション。 
サスペンションをエアスプリング&ダンパーユニットと組み合わせ、
電子制御する傾向は、多くのオフロード4輪駆動車で認められる。
ディスカバリー3でも、その通り。

舗装路と未舗装路の両方で、乗り心地とハンドリングを両立するために貢献し、
最低地上高を変えることによって、ラフロードの凹凸をクリアできる利点も大きい。
特に、最低地上高を上げた時の、サスペンションストロークが大きい。
そして、ストロークが大きいだけではなく、細かな動きへの追従性が高い。
大きなショックを懐深く受け止める一方で、小さな石を乗り越える際にも、
サスペンションが石の直径分だけ滑らかに上下している。
大きな動きと小さな動きを同時にこなせている。

イベントでは、特別な悪路や高低差のある過酷な場面で、
コドライバーは車外に出て、ドライバーを導く役割を果たす。
その際にタイヤとサスペンションを観察していると、
ディスカバリー3の悪路踏破能力が高い理由が理解できた。
そのサスペンションの働き方が、とても細やかなのだ。
そして、エンジンとトランスミション、駆動系統を統合制御している
「テレイン・レスポンス」と「ヒルディセント・コントロール」システムも、
悪路で威力を発揮している。

テレイン・レスポンスは未舗装路を4パターンに分け、それぞれに
最適なスロットル特性やギア変速を、クルマが自動的に執り行なうもの。
ヒルディセントコントロールは、急勾配や滑りやすい路面を下る時に、
ドライバーのブレーキ操作ではなく、クルマが4輪それぞれのブレーキを
コントロールするものだ。

どちらも、クルマが走行状態を検知し、最適のギアとスロットル特性、
ブレーキなどを判断し、電子制御する。
効能は著しい。
かつての、エンジンとトランスミッションが電子的に結合されていなかった
時代のようには、ドライバーの力量の差が現れにくい。
ビギナーでも、これらのシステムの力を借りることによって、
エキスパートに近い走りができるようになった。