第38回:9月4日「ロカ岬」



『10年10万キロストーリー4』刊行記念!


2003年7月31日に富山県を出発した、「カルディナ」と自動車ジャーナリスト 金子浩久の一行は、ついにポルトガルに到着。最終目的地の、ユーラシア大陸最西端「ロカ岬」へたどり着くが、カルディナのゴールはまだ先だった!?








■ポルトガルに抜ける


スペインとポルトガルの国境を越え、オリーブ畑を貫く道路「IP2」を、リスボンに向かって走っていく。

「アレッ、例の咳込みがなくなりましたよ。ほら、ネッ」
カメラマンの田丸さんが、試しに3100回転前後をキープしてスロットルペダルを踏んだり、抜いたりしている。
「リューベックからここまで5回満タンを繰り返していますから、完全にロシアのガソリンが抜けたんでしょう」
ロシアでは92か93オクタンのレギュラーガソリンを入れていたが、ドイツからは95のスーパーに替えている。ヨーロッパでは、92や93オクタンがないのだ。オクタン価の違いなのか。それともやはり、ガソリンの質なのだろうか。僕らのロカ岬到着を祝って、カルディナも調子を取り戻してくれたのならいいのだが。

リスボンへは「A1」で入り、途中で新しくできた“外環状線”に移り、中心部には入らず、カスカイス方面に向かう。カスカイスからは細い一般道を行く。ロカ岬には、昨年に仕事で訪れているので道は覚えている。変則的なT字路で標識を見落としたことを思い出し、間違えずに行けた。


■ロカ岬到着!


見覚えのあるロカ岬に着くと、昨年よりも旅行者の数が多い。雲も出ているが晴れていて、断崖絶壁がよく見える。ここまでユーラシア大陸を走り続けてきて、スパッと陸地を切り落としたようにして、いきなり大西洋が始まっている。「ここでヨーロッパの地が終わり、海が始まる」といった文章が記された石碑が建っていて、いろんな国から来た旅行者が写真を撮ったり、ビデオを回している。 “ヨーロッパの地が終わり”というのはヨーロッパの人々の感覚なのだろうが、僕らにしてみれば、そのヨーロッパはアジアとつながっていることを書き忘れているじゃないかと半畳のひとつも入れたくなる。“ロシア極東より続いた陸地が、ここで終わる”と新しいプレートでも作って張り付けたい気分だな、と田丸さんと冗談を言い合う。

カルディナに大西洋を見せてやりたいが、あいにく手前の駐車場までしかクルマは来ることができない。絶壁の傍らからカルディナを振り返ると、ヨーロッパナンバーのフィエスタやゴルフ、メガーヌなどに混じった練馬ナンバーに全然違和感がない。

薄い雲越しの太陽が、大西洋に道を描くようにして海を照らしている。白く反射して見える帯のずっと先は、アメリカだ。


























■ゴール! のはずだが……。


約1ヶ月間、途中でカルディナを列車やフェリーに乗せはしたが、東京の自宅から運転してここまで来ることができた。幸いにして、致命的なダメージを被ることもなく、カルディナとともにゴールまで走り切れたことに感謝したい。いろいろな道を走り、いろいろな街を通り過ぎていろいろな人に会った。瞬時には思い出せないほど長い旅だったが、長さは感じていない。

ユーラシア大陸横断を終えて大きな感慨に浸ることになるはずだが、僕らはこのあとロンドンまでカルディナを運転していかなければならないから、正直なところ、その余裕がない。
まだ旅は続くのだ。
潮風が心地よい。

(文=金子浩久/写真=田丸瑞穂/2003年8月初出)