第25回:8月24日「ウラル越え」



『10年10万キロストーリー4』刊行記念!

ヤルトロフスクの街を出て、いざ西へ出発。目の前に迫るは「ウラル山脈」。
これを越えればついにヨーロッパだ。カルディナはウラルの坂道に突入していった。






■ロシアのカフェめし


朝7時出発。チャリアビンスクという大きな街を目指して、「IP402」で西へ走る。チャリアビンスク手前の、チュメン地区とクルガン地区の境目でカルディナを停めて、写真撮影。「レーニンの旗」という名前のかつてのコルホーズの看板というか、モニュメントがカッコいい。
こうしたソ連時代の看板類は街道を走っていると、いたるところで目にする。“共産党独裁”だったはずなのに、書体や色遣い、産物や主要産業などをシンボライズした各地のデザインは千差万別。見付けるのが楽しみとなった。まだ、社会主義国家建設に輝ける未来が託されていた頃の作品なのだろう。造形がストレートで、力がこもっている。

チャリアビンスクの街を抜け「M5」に入る。中央分離帯付きの片側2車線道路だ。カフェが併設されたガソリンスタンドも増えて来た。「M5」に入ってすぐの店で、ランチをすませることにした。今風にいえば“カフェめし”だ。ハンバーグにソバの実を蒸かしたものに、トマトサラダ、紅茶をオーダー。


■もうすぐヨーロッパ

ガソリンも満たし、出発。これから、いよいよウラル越えとなる。ウラル山脈を越えれば、そこはもうアジアではなくヨーロッパだ。
ウラルは山脈と称していても、まだこのあたりでは険しい山はない。標高もせいぜい700メートル台だ。長い上り坂と下り坂を繰り返しながら、すこしづつ標高を上げていくのだ。

坂には追い越し車線も用意されている。青息吐息で坂を上がる大型トレーラーやバス、古い「ジグリ」や「ラーダ」などの遅いクルマもいれば、最新のドイツ車などスピードがかなり出るクルマも走っている。追い越されるクルマと追い越すクルマの差が歴然とする中で、わがカルディナはその中間的な存在だ。こちらが追い越し中に、対向車線でも速いクルマが追い越しにかかったりすると3速にシフトダウンして、スロットルペダルを全開にしなければならない。
コーナーでは危険なので、追い越しをするクルマはさすがに少ないが、直線部分では100km/h以上で加速中の2台が分離帯なしに擦れ違う。一歩間違えば重大な事故が待ち受ける。交通検問所の脇には、オフセット衝突してフロント部分がグシャグシャに潰れたクルマが何台も見せしめにされており、それを横目で見ながら走り抜ける。


■つまらない商店街

山の様相はどことなく、日本の東北当たりのそれと似ている。なだらかな稜線が続き、土と石が混じり合った山肌の上に、雑多な緑が濃い。

道端では、もの売りがたくさん並んでいる。この辺りから食べ物以外のものを売る店が増えてきた。ニセモノのアディダスやナイキのスニーカー、Tシャツ、白樺の木彫り細工、なぜか水泳用の浮き袋やボート、自転車、木の玉を編んだクルマのシートカバー等々が並ぶ。「なんでこんなものが、こんなところで」と首を傾げてしまうような、よくわからないものがたくさん売られている。そしてそれは1軒だけのことではなく、まったく同じ品揃えで何十軒と続いているのだ。それら不思議品のファクトリーアウトレットが近くにあるからなのか、それとも問屋が共通しているのか。
記念に何か買おうと、なかば強制的に気持ちを高めてみても、欲しくなるようなものが何もない。ロシアでは、モノにも愛嬌や愛想がないから、イヤんなっちゃう。









■初のディスカウント

ウラル越えは、2時間半くらいで終了した。山というより、長い長い高原のようだった。ウファの街に入るところの交通検問所で停められ、ステッカーをせびられる。係員の態度が素直だったので、ピレリ、ヴァルヴォリン、ランドローバー、ワコーズなどを多めにあげる。ついでに、ウファの街のホテルを訊いた。
「それだったら、ウファで一番いいのは『ロシア・ホテル』だ。ちゃんと、商売女も部屋に来るからな」開口一番ステッカーをせびり、コールガールの存在がいいホテルの証明だと自信をもって勧めるロシアの警官って何なんだ。ヘンだけど、素直だから憎めない。

勧められたロシア・ホテルにチェックイン。建物はソ連時代のオールドスタイルだが、部屋は改築されている。チェックイン前に部屋を見せてもらい、ウファのローミング先に電話でダイヤルアップできるかどうか試してみたら、つながった。シングルルーム40米ドル(約4640円)なり。











目の前の、レーニン像がそびえる中央広場。
奥の公園で夕食。数日ぶりに、陽がある時に夕食を食べ始めることができた。屋外バーベキュー屋。バーベキュー3人分で511ルーブル(約2044円)。モンゴロイド系の顔つきをしたバシュキリア人店員が、小銭の1ルーブルを返してマケてくれた。他のロシア人だったら絶対に考えられないことだ。バーベキューは昨日ヤルトロフスクで食べたものと似ており、新鮮な羊肉にスパイスがきいたもので、とてもウマかった。

日曜日なので、広場と公園には午後11時過ぎになっても人出が減らない。公園の移動遊園地が賑わっていた。

(文=金子浩久/写真=田丸瑞穂/2003年8月初出)