第14回:8月14日「最後のダートか?」



『10年10万キロストーリー4』刊行記念!

1996年型「トヨタ・カルディナCZ」で目指す、ユーラシア大陸横断。
イルクーツクからクラスノヤルスクへ


■ 大雨のなか出発

今日は、イルクーツクを出発して一気に1150km先のクラスノヤルスクまで走りきる予定。1日の距離としてはこれまで最長だし、今後もここまで長い距離を走破することはないだろう。

朝6時に「アンガラホテル」をチェックアウトして、出発。あいにくの大雨。
イルクーツクの街を出て、国道「M53」に乗る。ロシアで初めて中央分離帯付きの片側2車線だ。しかし、それもホンの20~30kmで終わり。今まで通りの、片側1車線の対面通行に戻る。

ところが、イルクーツクを出て50kmほど走ったところで道に迷い、巨大な工場地帯に迷い込んでしまった。どこにも標識が出ていなかったので、いつものように「M53」が村や町を通過しているのだと考えていたのだが……。通行人や警官などに道を訊ねても、複雑でうまく答えられない様子。なんとか、最初に渡った橋を越え、国道との分岐点に戻ることができた。
戻ってみて、迷った理由がわかった。「M53」は右にカーブしながら、左から来た道と合流している。右か左に行くしかないが、右の方が道なりだし、他のクルマもそちらへ進んでいく。左は鋭角に曲がらなくてはならないし、標識が何も出ていなかった。でも、ここを左に曲がるのが「M53」だったのである。これじゃ、わからないよ!!












■ ダンパーが抜けた

町や村を通り抜ける以外は、イルクーツクまでと同様に草地と白樺林の連続だ。いくつかの雨雲の下を通り抜ける度に、雨に洗われる。

カルディナは、ベルトからの異音が完全に消え、ステアリングはフルロック付近での滑らかさが増した。しかし、燃料計は壊れたまま。オドメーターで 500km 毎に給油して走る。それにしても、1150kmは長い。ダート区間がすこしあると聞いていたが、2本目が特に長かった。
舗装路では 100~120kmで巡航できるが、減衰力の足りないダンパーがカルディナを不安定にさせる。高速で路面の凹凸や段差を乗り越えた際の上下動が収まらない。3人と3人分の荷物を載せてリアヘビーなうえ、“極悪ダート”でダンパーが酷使されたから“抜けて”しまったのだ。乗員が揺すられ続け、乗っていてとても疲れる。また、コーナリング時にタイヤを路面に押し付ける力が弱まることにもなり、不安定で危険だ。こんなに早くダンパーが抜けるとは、出発前には予想もしなかった……。












































■ イーゴリさんの愛娘

草原に、とても大きく“кафе ”とキリル文字でカフェの看板が出ていたので、遅い昼食をとることにする。カフェのメニューはどこでもほとんど同じ。僕は焼いたレバーに蕎麦の実の付け合わせと、ボルシチを頼んだ。
ところが、出てきたレバーを一口食べてビックリ。好き嫌いがまったくなく、どんな料理も好む自分だが、これは一口しか食べられなかった。肉牛の種類が違うからなのか、それとも新鮮ではないからなのか、異様な味と臭いが気持ち悪い。“濃厚な味”や“クセの強い風味”の食べ物はむしろ好きはずなのに、薄く緑色がかったレバー焼きだけは勘弁してもらった。

760km 地点で、「M53」の上に大きな標識があった。「検問所59km先、病院32km先、ガソリンスタンド20km先」といった内容が、ピクトグラフ(絵文字)と数字で記されている。この種の標識は、ロシアに来て初めて見た。ヨーロッパへ近づいていることを一同、実感する。この日は3回給油し、合計90リッター。ダートは7カ所あった。

クラスノヤルスクには午後9時過ぎに到着。そのまま、通訳のイーゴリさんのお宅へおじゃました。彼はクラスノヤルスク大学の教員だから、家は近くの教職員寮。お義母さん、奥さん、そして生まれて3ヶ月の愛娘ビクトリアちゃんと対面。とても嬉しそうだったが、抱く姿がぎこちなく、笑われていたのが可笑しかった。

(文=金子浩久/写真=田丸瑞穂/2003年8月初出)

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イルクーツクで撮ったカフェのカンバン。
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イーゴリさんの奥さんと、生まれたばかりの
ビクトリアちゃん。