第3回:8月3日「ロシアに上陸」



『10年10万キロストーリー4』刊行記念!

1996年型「トヨタ・カルディナCZ」で、ロシアのウラジオストクに上陸。ポルトガルはロカ岬を目指す。自動車ジャーナリスト金子浩久が、インターネット経由で旅を報告!


■ 桟橋にて

午前9時27分、RUS号はウラジオストク港に到着した。
雨と霧で、遠くからは港の様子がうかがえなかったが、岸壁に近付くにつれてよく見えてくる。出迎えの人たちは、みんなジャケットを着ている。寒そうだ。トラック以外、停まっているクルマは全部日本車。ちょっと前の「マークII」「クレスタ」「ビスタ」「カローラ」「コロナ」そして「カルディナ」も見える。

船に預けてあったパスポートを返却してもらい、出入り口の入国係官らしきロシアの役人に見せただけで船から下りる。桟橋を渡り、入国審査。英語で、簡単な問答だけ。見ていると、何も聞かれない人の方が多い。手荷物も、X線検査すら通さない。これじゃ、何でも持ち込み放題だ。衛星携帯電話を持ってくればよかった。
出発前に、東京の衛星携帯電話レンタル会社の人に、「今年に入って、ロシア政府はマフィア取り締まりを強化するために、モスクワで許可を取っていない衛星携帯電話は税関ですべて没収している」と聞いていたから、持っていくのを最後の最後でやめたのだ。あれは、飛行機での入国の場合の話だったのだろうか。

「プリモーリエホテル」へ向かう。港は、シベリア鉄道終点であるウラジオストク駅と隣接しており、交通の中心地となっている。プリモーリエホテルは、その近く。街を走るクルマの99.9%(?)は、やはり日本車。0.1%は、ロシア製大型4ドアセダンの「ボルガ」。モデルチェンジしていなので、程度のえらく違うクルマが走っている。



■ 日本とのギャップ


日本車の内訳は、見た目で6、7割がトヨタ。残りが、三菱、日産、ホンダで、マツダやスバルは、ごく少数。トヨタでは、マークII三兄弟、ビスタ、コロナ、カローラなどの4ドアセダンと、大小の「ランドクルーザー」が多い。なかでも「ランクル100」がステイタスシンボルのようで、乗っているのは、羽振りと勢いのよさそうな人ばかり。
道行く若い女性の姿は意外と(失礼!)ファッショナブルで、スタイルのいい人が多い。でも、男性はちょっと違っていて、着ているのはトレーニングウェアの上下や放出品の軍服や軍パンツを野暮ったく着ている。

コンビニやスーパーもあるが、違うのは勝手に商品を手にとって選べないこと。閉架式図書館のように、棚に陳列している商品を指して店員に取ってもらわなければならない。時間がかかるし、ついつい遠慮してしまって、買うべきものを忘れてしまったりする。おまけに店員は無愛想な人が多いから、早く店を出たくなる。
僕には読めないキリル文字だからなのか、店やレストランを見付けにくい。派手な看板もなく、普通のビルの一角がスーパーだったりする。消費文化が超高度に進み、何でもすぐに手に入る東京から来ると、ギャップは大きい。いい悪いは別にして、ロシアはまだ完全に資本主義に移行したとは言えなさそうだ。

今日は日曜日なので、クルマの通関業務は休み。明日の月曜日に出直すことになる。わがカルディナは、ちゃんと保税倉庫から出てこられるのだろうか。

(文=金子浩久/写真=田丸瑞穂/2003年8月初出)